おはようございます。
昨日に続いて、波頭亮著『AIとBIはいかに人間を変えるのか』をレビューします。
本日は第2部のベーシックインカム(BI)に関する考察です。
まず、ベーシックインカムを学ぶうえで知っておかなければならない前提事項があります。
1) 経済的に豊かになった先進国では、市場主義的なメカニズムを追求すると格差が拡大し、大量の貧困層が発生する
2) 格差と貧困に対して経済政策や社会保障政策を打ち出しているが、根本的な解決には至らず、少子高齢化社会の到来によってますます解決が困難になっている
3) 社会保障政策を充実させればさせるほど、それを維持するのに必要な人件費やシステムの維持費などにコストがかかる
これらの問題を解決するために、近年注目されているのがベーシックインカム(BI)というアイデアです。
『AIとBIはいかに人間を変えるのか』:BIに関するレビューです
ベーシックインカム(BI)とは何か?
そもそもBIとはどのようなものか知らなければ話になりません。
BIとは、「全ての国民に対して生活を賄えるだけの一定額の金銭を無条件で無期限に給付する」制度です。
より具体的には、
BIとは、
1) 無条件給付である(受給のための要件や、年齢・性別・疾病の有無・就業状況等の制約がない)
2) 全国民に一律に給付される
3) 最低限度の生活を営むに足る額の現金給付である
4) 受給期間に制限が無く永続的である
ことが特徴です。
ここまでは簡単ですね。
BIの長所は?
従来の社会保障制度と比較した時のBIのメリットとして、著者は以下の5点を挙げています。
BIの制度的な長所として5点挙げることができる。
1) シンプルである
2) 運用コストが小さい
3) 恣意性と裁量が入らない
4) 働くインセンティブが失われない
5) 個人の尊厳を傷つけない
1)と2)に関しては、今の日本にも生活保護制度がありますが、認定を受けるまでには様々な審査が必要であり、 多大な人件費や調査費などがかかるのが問題です。
要するに、生活保護を認定するシステムの維持自体に大きなお金が必要なため効率が悪いと言えます。
4)も生活保護と比較すると分かりやすいですね。
生活保護は一定の基準を満たさなくなると受給できなくなりますので、「働くだけ損する」という考えになり、勤労意欲が失われるという問題点があります。
BIの制度的懸念とは?
BIの制度的な懸念点に関して、著者は下記のように述べます。
BI導入に関する懸念点とは、働かない人を増やしてしまうという「フリーライダー(タダ乗り)問題」と、財源がそもそも確保できないという「財源問題」の2つが主なものである。
前者に関しては、望まない仕事に就く人の数が減るのは間違いないと思います。
一方で、仕事には社会性を保つという側面もありますから、自分の好きな仕事をやって好きなだけ稼いで生きる人は増えるかもしれません。
全く働かなくなる人がどの程度生まれるかは正直読めませんね。
その国の国民性にもよる気がします。
財源に関しては、国民負担率を欧州並に上げ、消費増税、資産税を課せば確保可能としていますが、ここは賛否両論ある所でしょう。
BIによって解決すべき最大の問題は経済格差である。
格差解消のための有効な手段として挙げられるのは、資産税、相続税、所得税における累進課税である。
格差を解消するための再分配策として富裕層から低所得層や富を移転するという基本スタンスは外すべきではない。
そして現在の深刻な格差を生んでいる根本的要因は資産格差であり、資産格差の主たる部分を成しているのは金融資産なのであるから、金融資産課税を避けるべきではない。
金融資産課税は規模の観点から見ても有力な財源であり、格差解消の方法としても最も有効なのである。
私個人としては資産課税はぜひやめていただきたいですが、国を挙げてBIに舵を切ることになれば避けられないだろうと思います。
BI導入の2つの障壁
1) 官僚の抵抗
BIの特徴は上述の通り、制度がシンプルで、恣意性と裁量を排除できる点にあります。
一方で、官僚側にとっては自らの仕事の価値を否定され、職を奪われることに直結しますので、大きな反対が予測されます。
官僚とて人間ですから、自らの仕事に自分やその家族の生活がかかっています。
BIが導入されれば、官僚の既得権の大半が失われます。
既得権に対する権利意識が根強い日本においては、BIの導入には高いハードルがありそうです。
2) 「働かざる者、食うべからずという社会通念」
個人的には、これはBI導入の最大の障壁になると思います。
人類は長い歴史の中でずっと「働かざる者食うべからず」という規範の中で生きてきています。
よって、「BIには◯◯のメリットがあるから合理的である!」といくら理詰めで議論されても、なんとなく心理的に受け入れられないのではないでしょうか。
「働かなくても食って良し」が受け入れられるには、かなりの時間がかかりそうですね。
日本の進むべき道はヨーロッパ型の再分配強化しかない
ヨーロッパ諸国では、日本と同様に高齢化が進行しており、それに対応するために国民負担率を50%〜70%前後に引き上げ、大きな再分配政策をとっています。
国民負担率を上げることで社会保障や教育の無償化を充実させ、格差を解消することを重視しています。
デンマークやスウェーデンなどの北欧諸国がその代表ですね。
一方、アメリカは、市場メカニズムを最大限に尊重し、資本主義のダイナミズムを重視する戦略です。
そのために、積極的な移民受け入れ政策をとり、人口の高齢化を防いでいます。
人口が高齢化しますと、原理主義的な市場主義経済は回らなくなるからです。
アメリカは、経済成長を重視する政策で成果を残していますが、一方で、富の再分配機能の過少によって格差と貧困問題が深刻化していますね。
日本の今現在の立ち位置は中途半端すぎます。
日本の高齢化は世界トップレベルで、今後も進むことが既定路線なので、著者は欧州型の再分配強化に舵を切るしかないと主張します。
まとめ
この後に、第3章で「AI+BIの社会で人間はどう生きるのか」というテーマがあるのですが、全て書いてしまうと本を読んだ時の面白さが失われるのでやめておきます。
AIとBIは将来の日本を考えるうえで外せないテーマだと思いますので、興味ある方は一読をおすすめします。
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『お金2.0』も最近読んだ本の中ではインパクトの大きな本でした。Newspicks Bookの本は面白い視点の本が多いですね。
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