おはようございます。
波頭亮著『AIとBIはいかに人間を変えるのか』を読みましたので、書籍レビューです。
結論としては、人工知能(AI)やベーシックインカム(BI)という言葉自体は聞いたことがあるけれど、イマイチ理解できていないんだよなぁという方の初めの1冊としておすすめです!
本日は、第1部の人工知能(AI)に関する部分だけをレビューします。
AIの発達によって、将来人間の仕事が奪われるという話はよく聞きますが、著者は、
1) 知的労働の価値が暴落する
→知識や論理的思考力を売りにしている人材はAIに代替される
2) 感情労働の価値が向上する
→人に寄り添って共感や癒しを与える仕事は価値が向上する
と結論づけています。
『AIとBIはいかに人間を変えるのか』:人工知能編のレビューです
汎用型AIの実現にはまだまだ時間がかかる
著者は初めに、AIの歴史について解説しています。
細かいことを記載しだすとキリがないので、歴史については割愛します。
さて、現時点でのAIは最先端のものでも、特定の能力に特化して高い性能を誇る「特化型AI」です。
囲碁で勝利することに特化したアルファ碁みたいなやつですね。
一方、AIの最終的な理想は「汎用型AI」であり、一つの能力に特化しておらず、様々な場面に臨機応変に対応できる能力を備えたAIです。
しかし、その実現にはまだまだ時間がかかると結論づけています。
例えば、コンビニの店員は一見簡単そうに見えますが、
レジ打ちをしつつ、お客さんが少ない時間帯を見計らって商品を補充して、店舗の清掃をして、デリを作って・・・
のように、状況を見ながら複数のことをこなさなければならないので特化型AIでは対応が困難です。
著者は、AIの強みと弱み、将来奪われる職業と残るであろう職業に関して下記のように考察しています。
AIの強みとは?
AIの得意分野として、著者は下記を紹介しています。
・膨大な情報分析、処理を迅速に行う
・情報/データの特徴や規則性、相関関係を抽出、学習する
・客観的妥当性の高い解を導く
・情報を定量化する
また、個人的には次の文章が印象に残りました。
人間は進化の過程において「危険を回避するための思考と判断」を発達させてきたために、リスクの高い選択肢を無意識的に省いてしまう傾向にあるが、AIはそのような恐怖心を持たない。
また人間は経験に基づいて情報の重み付けをしがちであるため、未経験の選択肢を軽視してしまう傾向があるが、AIにはそのような判断の偏りは無い。
投資などリスクがからむ世界になると、確かに「危険回避行動」「未経験に対する恐怖心」 というのは理解できますね。
AIはこういった人間の心理面を除外できるのが強みということです。
ウェルスナビやTHEOなどのロボアドバイザーはまだまだ洗練されていくでしょうから、本領発揮はまだまだこれからなのでしょう。
AIの弱みとは?
AIの苦手分野として、著者は下記を紹介しています。
・少ない情報/データから推論する
・言葉の背景にある意味、意図を解釈する(本音と建て前の判断)
・因果関係を読み取る
・(非合理性を含む)人が関わる事象に対して解を出す
・トレードオフが生じる中で意思決定する
・目的/目標設定を行う
・ゼロからイチを生み出す
要するに、解が一つに定まらない、もしくはそもそも正解がないもの対して自分なりの見解を示したり、不完全な状況の中で未来を推察するのは苦手ということですね。
AIの苦手分野を知ることで、我々人間の生き残るべき道が見えてくると思います。
AIはあくまで人工の「知能」である
著者、AIにはない人間の強みとして下記を挙げています。
人間の知的能力には、合理的な思考・推論だけでなく、想像、直観、発想、大局観、未知の事象に関するシミュレーションといった様々なものがある。
これによって、不確実性の高い中での曖昧なタスクにも、未知のタスクにも、ある程度対応できるのである。
心や身体性を持てなければ人間の知能の全てを代替することはできないということですね。
AIはあくまで人工「知能」であって、人間の全ての代わりはできません。
AIは人間の仕事を奪うか?
AIが人間の職業を奪うというのはよく聞く話ですが、具体的な数字として、
・日本でもAIによって49%の人が職を失う
・2011年度に小学校に入学した子供達のうち65%は今存在していない職業に就くだろう
という文章が目を引きました。
けっこうインパクトのある数字ですよね。
お子さんが小さな家庭では、今後の子供の教育を考えるうえでも外せない視点です。
AIに代替される仕事は?
単純で多くの人員を必要とする経理作業やプログラミング作業は、作業効率が圧倒的に高いという理由からAIに取って代わられる。
一方で、高レベルの知的プロフェッショナル職はその報酬額が極めて高いことから、AIを導入した方がコスト的に安くつくのでリプレイスされるのである。
単純な情報処理作業と、高額な報酬を得ている知的プロフェッショナル職の両面から、多くの知的労働がAIに代替されていくということです。
単純作業はAIに代替されるイメージが湧きやすいですが、高額な報酬を得ている知的プロフェッショナルは、元々の給料が高いがために早々にAIに侵食される可能性がある点は注意が必要です。
実際に起きている事例として、
・米国の会計士・税理士の需要がこの数年で約8万人減少した
・ゴールドマン・サックス本社のトレーダーがAIの導入によって600人から2人に削減された
を挙げています。
600人から2人って・・・実際の事例を見るとリアリティが増しますね。
AIが苦手とする仕事→「感情労働」の価値が上昇する
AIが担うことが難しい仕事の特徴、性質としては、
1) 身体性ベースのマルチタスク要素
2) 直観/直感の要素
3) クリエイティブ要素
という人間ならではの3つの要素が挙げられる。
広義の感情労働とは、状況を読み取り、対峙する相手の感情を汲んで、臨機応変かつ親密に対応することで相手に情緒的価値を提供する労働を指す。
つまり心情的サポートや情緒的対応、そして厚いコミュニケーションによる共感や交流が求められるものである。
我々医師の仕事の全てが失われることはなさそうですが、「診断」や「治療方針の決定」など専門性を要する部分はAIに取って代わられる可能性は十分ありそうです。
AIが高度に発達すると、「◯◯専門医」の価値は下がり、患者との対話、コミュニケーション力、心理的なサポートができる医師が生き残るのでしょうか。
カウンセラー的な役割になりますので、どちらにせよ給与水準は下がりますね。
また、そういった仕事であれば、医師ではなく看護師や心理カウンセラーなどのコメディカルの方が強いかもしれません。
となると、やはり一部の医師の仕事は奪われそうですね。
「医師」という肩書きの価値が今よりも下がることを想定しておきましょう。
まとめ
人工知能(AI)について体系的に学んだことがなかったので、本書の内容は非常に参考になりました。
他にも何冊か人工知能に関する本を読んで、知識の偏りを無くしていこうと思います。
こんな記事も書いています。
『新しい時代のお金の教科書』も最近読んだ本の中で面白かったです。お金自体の持つ価値や国家の力は衰退し、個人の信用・価値がモノを言う時代がやってくるというのは新鮮でした。
『お金2.0』も大変インパクトの大きな本ですね。分散型社会、トークンエコノミーがどの程度実現するかは私には分かりませんが、著者の知識量には圧倒されます。