おはようございます。
今週号の『週間ダイヤモンド』に面白い記事がありました。
癌に関連する遺伝子異常を一括で調べる「パネル検査」が2018年度中に公的保険適応になるかもしれないとのことです。
脳腫瘍は脳神経外科で主に診ますので、我々神経内科は日常診療では癌を診ることが少ないのですが、ご存知のように癌は日本人の死亡理由の圧倒的1位です。
「そんなに優れた検査ならば保険適応になって当然だろう」と思われるかもしれませんが、事は簡単ではありません。
最先端の検査や治療法は高額であることが多く、その財源をどのように確保するのかという点が問題になるからです。
がん関連遺伝子異常を網羅的に調べる「パネル検査」が保険適応に!?
従来の抗癌剤はがん細胞にはもちろん有効ではありますが、それに加えて正常な細胞にも攻撃を加えてしまうため、血球減少、吐き気、しびれ、感染症、便秘や下痢、全身倦怠感、脱毛などの様々な副作用も多く見られます。
抗癌剤の有効性が認められても、それを上回る副作用が出現したために治療が継続できないケースもしばしばありました。
そこで、癌細胞だけに見られる遺伝子異常をターゲットにした分子標的治療薬が開発され、年々使用実績が増えてきています。
分子標的治療薬を使用するには事前に患者の遺伝子異常を知る必要がある
分子標的薬自体が非常に高額で副作用もありますので、効くかどうか分からない患者さんにやみくもに投与することはできません。
あらかじめ患者さんの癌細胞に見られる遺伝子異常の種類を特定し、それに該当する分子標的治療薬を選択する必要があります。
ここで問題になるのは、仮に癌に関連する遺伝子異常が分かったとしても、それに対応した治療薬が存在しなければ意味がないということです。
最終的に治療につながらなければ高額な検査代を払った意味がありませんね。
現状では、一つ一つの遺伝子異常を調べる検査はいくつか保険適応になっているものの、一人の患者さんの遺伝子異常を網羅的に調べる「パネル検査」は保険適応外で全額自己負担になっていました。
その「パネル検査」が2018年度中に保険適応になる可能性があるということです。
費用は一件あたり60〜100万円。どう見ても医療財政は破綻しそう・・・
そんなに優れた検査ならば、公的保険で認可されるのは当然だろうと思われるかもしれません。
しかし、事は簡単ではありません。
癌に関する研究が進み、新たな検査や治療法が開発されることは素晴らしいことですが、最先端の検査や治療で常に問題になるのがコストです。
この「パネル検査」についても例外ではなく、費用は約60万円〜100万円と高額です。
でも確かに、自分が実際に癌にかかった時のことを想像してみると、「60〜100万円払えば自分に最適な薬が分かります」と言われれば払う気もしますね。
日本では高齢者人口が急増し医療費が年々増大傾向である一方、主に医療保険の財源を支えている現役世代の人口は減少が続いています。
やみくもに承認しても財源が確保できず、最先端の検査のせいで医療財政が破綻するという皮肉な結果になりかねないのです。
癌が対象なので対象者が多すぎるのが問題
患者さんの数が少ない稀な病気であれば、こういった高額な検査を行うことはさほど問題になりません。
問題は対象が癌患者ということです。
国立がん研究センターの統計によれば、2012年に新たに癌と診断された方は865,238例もいらっしゃいます。
もちろん、すでに癌と治療されて闘病中の方もたくさんいらっしゃいますから、実際にはもっと多くの患者さんが「パネル検査」の適応になる可能性があります。
パネル検査自体が60〜100万円で、その後の分子標的治療薬は物によって価格は異なりますが、月に300万円くらいかかることもざらです。
医療財政崩壊が避けられない気がしますね。。
検査で有効と分かった分子標的薬が保険適応外の可能性も
もう一つの問題は、仮に検査で「分子標的薬Aが有効」という結果が出たとしても、肝心の分子標的薬Aが保険適応外というケースもありうることです。
遺伝子異常が分かって自分に効く分子標的治療薬が実在としたとしても、お金が足りないために結局治療ができなければ本末転倒ではないでしょうか。。
非常に優秀な「パネル検査」ですが、優秀さゆえに解決しなければならない問題点もまだまだ多そうです。
こんな記事も書いています。
日本の公的医療を維持するためには、今後健康リスクの高い方の医療費負担増はやむを得ないと個人的には考えています。
尿検査のように、侵襲性が低く低コストな検査で診断ができるようになることが望ましいと思います。